ベトナムの“今”を現地から 提携ブランドの最新アイテムをダイレクトにお届けします

ベトナムの社会課題に対し、ものづくりや独自の仕組みで解決に取り組むブランドをセレクトし、その取り組みやアイテムを紹介いたします。

 今回は、ベトナム・ハノイ市に店舗を構える『CÚC Handmade Design(クック ハンドメイドデザイン)』にお邪魔しました。 創業者のクックさんにインタビューを実施。

ハノイ市から南西に約140kmほど離れた山間の里、マイチャウで暮らす「タイ族」の女性たちによる100%手織りのコットン生地と、障がいを持つ人々の社会的自立を支えるソーシャル・エンタープライズとしての歩み、そして「自然を纏う」ような心地よいものづくりについて、お伺いしました。


 

手仕事の聖地、マイチャウ(Mai Châu)とは?

ハノイから南西へ車で約3時間半(約140km)。険しい山道を抜けた先に広がる、美しい緑に包まれた盆地が「マイチャウ(Mai Châu)」です。

ここに暮らすのは、主に少数民族の「Người Thái(タイ族)」。 彼らは竹や木で作られた伝統的な「高床式の家」を守り、豊かな自然と共に生活しています。

マイチャウの風景を象徴するのが、家の床下に置かれた機織り機です。 農作業の合間に、女性たちがトントンと機を織る音が響く──。 ここで作られる織物は単なる工芸品ではなく、母から娘へと受け継がれる彼らのアイデンティティそのものです。 霧深い谷に息づくその静かな暮らしと手仕事の風景は、訪れる人々にどこか懐かしい安らぎを与えてくれます。


 

名前は「クック」、意味は「ボタン」。手仕事への愛を込めて

Fav! 編集部(以下、F):ブランド名の『CÚC Handmade Design(クック ハンドメイドデザイン)』は、とても温かみのある響きですね。どのような由来があるのでしょうか?

クック: 私の名前が「クック(Cuc)」なんです。実はベトナム語で「クック」には「ボタン」という意味もあって。 ベトナムでボタンの話をすると、みんな自然と手芸や手作りのものを連想するんですよね。

 手織りの生地だけを使う私たちのブランドにぴったりの名前だと思って、2017年の立ち上げ時からこの名前を使っています。 もうすぐ8年になりますね。 現在はハノイに店舗がありますが、コロナ前はホーチミンにもお店があったんです。 パンデミックで一度は縮小を余儀なくされましたが、今はハノイの店舗や提携ショップ、そして2万人以上のフォロワーがいるFacebookページを通じて、多くのお客様に支えられています。


 

ツアーガイドから、社会起業家への転身

F: もともとは観光のお仕事をされていたそうですね。なぜファッションブランドを立ち上げることになったのですか?

クック:そうなんです。以前はツアーガイドとして、観光客をベトナム各地に案内していました。 ある時、現在の織り手さんたちが暮らす「マイチャウ」へ行き、そこで障がいを持つ女性たちを支援するソーシャルセンターを運営していたトゥアンさん[*1]の家にホームステイをしたんです。 彼女たちは当時、手織り生地でバッグなどの小物を作っていました。 私はガイドとして「よかったら彼女たちの作品を買って支援しませんか?」と観光客に紹介していたんです。

F: そこから、どのようにビジネスへと発展したのですか?

クック:転機は、日本のNGO「特定非営利活動法人 Very 50(ベリーフィフティ)」[*2]が支援に来たことでした。 トゥアンさんに頼まれて、私が通訳ボランティアとして10日間参加することになったんです。 活動の最終日、NGOの設立者からこう提案されました。「単なるセンターではなく、社会貢献型企業(ソーシャルエンタープライズ)を立ち上げませんか?」と。 その方が、より多くの地元の人々を持続的に支援できるからという理由でした。 私はビジネスの経験なんて全くありませんでしたが、若さとエネルギー、そして何より「彼女たちを助けたい」という一心だけで賛成しました。 そうして日本の専門家たちにブランド構築を一から教えてもらいながら、前身となる組織を立ち上げたんです。


 

「声」を持てなかった彼女たちが、誇りを持つまで

F: ブランドを通じて、現地の方々にどのような変化がありましたか?

クック:トゥアンさんが一番願っていたのは、障がいを持つ人々が「収入」を得て「権利」を持つことでした。 ご存知のように、以前は障がいを持つ人は社会の中で「声」を持てませんでした。 でも、働いてお金を稼ぎ、自分だけでなく家族まで養えるようになれば、彼らは一人の人間として権利を持てるようになるんです。 「何もできない」と思われていた彼らが、今では立派に仕事をしています。その変化に、私は本当に感動しました。


 

日本の美意識が生んだ、シンプルでエレガントな日常着

F:クック ハンドメイドデザインの服は、シンプルでありながら洗練されています。デザインのインスピレーションはどこから?

クック:実は、日本のボランティアの方々と一緒に働いた経験が大きく影響しています。 日本の女性の、シンプルでありながらエレガントなスタイルが本当に好きになったんです。 以前、ベトナムの手織り製品といえば「派手で民族的」なものが多く、日常着としては敬遠されがちでした。 そこで私は、非常に細い糸を選び、色も派手すぎないものにして、日本の影響を受けたシンプルなデザインを採用しました。 最初に作ったワンピースは、お客様に「やっと欲しかったものが見つかった」と喜ばれ、今でも一番の人気商品です。


 

信頼で繋がる、顔の見えるものづくり

F: ハノイとマイチャウ、離れた場所での生産管理は難しくありませんか?

クック:私は生産現場をとても大切にしていて、最初に本当に信頼できる織り手さんを探しました。 そこで出会ったのがMさんというタイ族の女性で、創業時からずっと一緒に働いています。 今では彼女の娘さんも私のスタッフなんですよ。 新しいデザインができたら彼女の家に行き、どう織るかを一緒に話し合います。 信頼関係ができているので、生地ごとにコード番号を決めておけば、電話一本で「コード1番の生地をお願い」と伝えるだけで作業が進められるんです。

 

夢は「綿の畑」を持つこと。原点への回帰

F: 最後に、これからの夢を教えてください。

クック:私の大きな夢は、いつか綿の木の大きな畑を持つことです。 今、マイチャウでは綿を育てる人が減ってしまい、人々は花から糸を作る方法を忘れかけています。 だからこそ、自分で綿花を育てて、収穫し、糸を紡ぐところから全部やってみたい。 織り手のMさんも「あなたがやるなら一緒にやる」と言ってくれました。 私たちの服を着た時に、まるで「素材そのもの」を纏っているかのような、自然そのものの心地よさと、ベトナムの伝統文化の温かさを感じていただけたら嬉しいです。

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*[1] トゥアンさん
創設者ヴィー・ティ・トゥアン

■ Hoa Ban Plus(ホアバン・プラス) マイチャウ(Mai Châu)のラック村にある社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)。 2008年、タイ族の創設者トゥアンさんが、障がいを持つ女性や貧困層の自立支援を目的に設立した「トゥアン・ホア社会保護センター」が前身です。 ここでは少数民族「白タイ族」の伝統的な織物技術を守りながら、手織り・草木染めの製品を生産しています。

Hoa Ban Plus(ホアバン・プラス) のブランド紹介はこちら

■ クックさんとトゥアンさんの関係 元ツアーガイドだったクックさんは、この工房を訪れた際にトゥアンさんの活動に深く共感。その後、日本のNGOと共に同センターの「社会的企業化(ブランド化)」を支援するプロジェクトに参画し、2014年に共同で「Hoa Ban Plus」を立ち上げました。 「ビジネスの知識も、手織りの素晴らしさも、すべてここで学んだ」と語るクックさんにとって、トゥアンさんは同志であり、ブランドのルーツといえる大切な存在です。

    
*[2] 特定非営利活動法人 Very 50(ベリーフィフティ)

アジア新興国の社会起業家が抱えるリアルな経営課題に対し、日本の若者(高校生・大学生・社会人)が現地に滞在しながら、共に解決策を実践する教育プログラム「MoG(Mission on the Ground)」を展開する日本のNPO。 本記事でCucさんが「ビジネスを一から教えてくれた」と語る日本のボランティアチームは、このVery 50のプログラム参加者たちです。



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